ちょっとVNAはお休みして、アンテナの実験をしてみました。WebでHF帯の事例を見ているとループアンテナを使われている方が多いようです。良く名前を目にするΔ(デルタ)ループやWSML(wideband small magnetic loop)等いくつかの設計例が公開されています。
原理を見てみるとインピーダンスの低い非共振のループエレメントを、インピーダンス変換と同相信号を除去する働きをする差動アンプで受けることにより、電界性の信号(ノイズ)を除き、磁界成分の信号のみを取り出すように動作するようです。
動作も面白く、回路としてはシンプルですし、部品をチップ化すると小さなキットとしてちょうど良い規模になりそうです。HFコンバータの資材調達に合わせて、基板化して作ってみることにしました。ベースの設計はWSMLとして、調達可能な部品を念頭に若干アレンジしました。
Trは原典通りにPN2222を使います。特性比較をした資料がありましたが、他の品種に比べて直線性に優れているようです。小さく作るためにSMDのSC-59パッケージを選んでしまったため、Pcが150mW程度しかありません。そのためIcを減らすよう各定数を変更しています。直線性が若干犠牲になるかもしれませんが、送信機の真横で使う訳ではないので良いことにしました。電源も任意の電圧で使えるようにレギュレータを省き、代わりにTrによるリップルフィルタを入れました。トロイダルコアは、どうしても必要な一つだけにとどめ、他はチップFBとLに変更しています。
レイアウトで部品は原則として片面のみに配置します。差動のバランスと、入出力のアイソレーションに注意して回路とレイアウト、GNDパターンを作りました。コネクタはSMAも使えるようにしましたが、原典では、ケーブルとしてイーサネット用のツイストペアケーブルを用いています。これだと電源線にも使えますし安価に済みますので、RJ-45コネクタも使えるようにしておきました。イーサネットケーブルのインピーダンスは100Ωですが、電力伝送するわけでもないですしアンプの後なので問題にはならないということにして気にしないことにします。基板サイズは40x45mm程度になりました。基板の製造はFusionPCBです。
基板が到着したあと、なんやかんやでひと月程放置していましたが、先週ようやく作り始めました。試作なので動作を確認しながら進めます。まず電源から実装して動作OKなら、次いでバイアス抵抗を付けて電圧を測って、Trを付けてIcを確認してと順に進めます。DC動作がOKなら最後にトランスを巻いて取り付けます。コアはFT50-75、大きめのコアなので巻線にはフラットケーブルの細い線を3本割いて5回巻きのトリファイラとしました。
トランスを基板上のパターンに取り付けます。コネクタを付けて完成です。SMAコネクタを切らしていたのでピンヘッダを付けてあります。最近同軸コネクタの代わりにピンヘッダを使っていますが付け外しが簡単で思いのほか便利です。アンテナ側はネジ端子にしています。手持ちの関係で写真では2端子ですが、シールドループにもできるようにGNDも合わせて3端子のパターンにしています。
12V動作の時には全体で60mA程の消費電流になりました。Trが100mW程度消費しているので若干暖まります。
ループですが、検討のすえ組立式のフラフープにアルミテープを巻いてみることにしました(いずれも100円ショップ=ダイソーで買うことができます)。これなら軽量でかつ安価です。ループはインダクタンスが低いことが低ノイズということで、エレメントは太いほうが良いのですが、フラフープは太さが3cm弱なのでその点でも好都合です。直径は66cmほどです。アルミテープの巻き始めと巻き終わりは離しておき、ここに電線を接続します。テープの幅が足りないので全体をカバーしきれず地のプラスチックの派手な色が若干見えてしまっていますが、2/3はカバーしているので電気的磁気的な影響はほとんどないはずです。導通を確認したところ、思いのほか抵抗が僅少です。テープながらさすがアルミです。ただし屋外で使うには、耐候性の点で期待できないかもしれません。
インダクタンスメータで計ってみると、1.15uHでした。
まずは実験ということで、室内で試してみます。HFコンバータにRTL2832Uドングルをつなぎます。ループとアンプは、本来は直接繋ぐ想定ですが、近くにあると実験の邪魔なのでとりあえず平行電線でつないでおきます。
なんと室内の壁に立てかけたループアンテナで、ちゃんと7MHzを聞くことができました。
ループの向きで感度がかなり変わります。指向性というよりヌルが明瞭にあることがよくわかります。資料に書かれていたようにループアンテナの特性が実感できました。
本当なら屋外に設置して実験してみたいところです。ようやく屋根の雪も融けて無くなり、長いイーサネットケーブルも買ってきましたので、近日中に試してみたいと考えています。
アンプの能力ですが、戯れにSGから信号を入れて、同相信号がどの程度除去されるか、また歪みがどの程度出るか試してみました。結果を記録していませんが、いずれも予想以上に少ない感じでした。また、電源電圧を下げてどこまで使えるか試してみましたが、4V以上で動作を始めるようです。簡便に済むUSBの5Vでも一応大丈夫なようです。
トランスにトロイダルコアを使いましたが、ちょっと不格好です。どうせRJ-45コネクタを使うのであればパルストランスが入ったものを使えば一石二鳥と考えて、入手可能なもので探してみたのですが、ちょうど良いものが見つかりませんでした。引き続き探してみたいと思っています。他のトランスについても検討しています。とはいえ、トランスを巻くのは自作らしさもあるので正直捨てがたいのですが。
リファレンス
- WSML by LZ1AQ https://www.lz1aq.signacor.com/docs/wsml/wideband-active-sm-loop-antenna.htm
- 日本語訳(翻訳:福永氏) https://www5a.biglobe.ne.jp/~mitu/wsml_eng_jpn.pdf
- 国内の設計例Δ(デルタ)ループ9。製作されている方が多いです。 https://www.kit.hi-ho.ne.jp/akage/DLOOP9D.html
- バイポーラトランジスタ直線番長実測比較 https://home.earthlink.net/~christrask/Bipolar%20Transistor%20Evaluation.pdf