RTLドングルを使ったHF受信は、コンバータを使った方法と、ダイレクトサンプリングの2種類があります。ダイレクトサンプリングとは、RTLドングルのRTL2832UチップのADコンバータ入力に直接RF信号を入力してしまう方法です。RTLドングルは、チューナ(R820TやE4000)とデコーダ(RTL2832U)で構成されているのですが、ダイレクトサンプリングとは、ダウンコンバータであるチューナチップをバイパスする改造をしたうえで、信号を受信する方法のことです。細かい作業が必要ですが、わずかな改造でHFが可能になります。
RTL2832Uは、固定のサンプリング周波数28.8MHzで動作しています。一方出力は最大でも3.2Msps程度の帯域幅しかありません。取り込んだ信号の帯域すべてを出力することはできないことは明らかです。が、RTL2832Uは、内部の信号処理によって、取り込んだ信号をさらに周波数変換して、任意の周波数帯を信号を出力することが可能です。これによりチューナ無しでもRF信号を選り分けて受信することができるわけです。
ただ、ダイレクトサンプリングにも欠点があります。いきなりADCに信号を入力してしまうので、たくさんのイメージ信号が出てきてしまいます。強力なFM放送がサブナイキストサンプリングで入ってきてしまいます。また、チューナを使用した場合にくらべると明らかにゲイン足りていません。とはいえ、8bitの解像度しかないADCであるにもかかわらず、HF帯の強い信号であればそれなりに受信できてしまうのがダイレクトサンプリングの驚くべきところです。
この欠点を改善すべく、ダイレクトサンプリング用にフィルタとアンプを備えたフロントエンドを作ってみることにしました。
サンプリング周波数が28.8MHzですからナイキスト周波数は14.4MHzになります。ナイキスト周波数を中心にイメージが出てきますので、ローバンドとハイバンドに分けてバンドパスフィルタを構成して、それを切り替えるようにします。超強力なAM放送は、今回の受信対象から外すことにします。アンプも入れる予定なので飽和させかねないからです。ということで、ローバンドは3M-14.4MHz、ハイバンドは14.4MHz-29MHzを目標としました。強力で邪魔な信号を目立たなくすることを目的として、フィルタ特性は甘くなだらかでOKとして、段数を少なめにします。
フィルタは二つですから、タイトルにもあるようにダイプレクサとして設計し、入力は共通とし、出力をRFスイッチで切り替えることにします。
ダイプレクサの設計法を探してみましたが、簡単なものしか見つけることができませんでした。というわけで、手元の資料を参考にしながら、シミュレーションでフィルタの構成と定数を検討してみました。
部品の種類が少なくなるよう定数が対称となるチェビシェフのBPFとします。いつものようにチップ部品を使うことを想定しています。まずフィルタ単独で定数を出してから、それらを組み合わせてダイプレクサとし、さらにシミュレーションして定数を調整します。結果だけ示します。
周波数特性です。赤がローバンド、緑がハイバンドの通過特性、青が入力側からの反射です。肩も甘く、フラットネスもイマイチですが、適当に作った割にはまぁまぁなかなと思います。
さて、これを実際に作ってみます。
今回フィルタだけではなく、RFスイッチやアンプを載せた基板を作ってみました。フロントエンドとして使うだけではなく、いろいろバリエーションの実験できるように様々なパターンを用意してみました。
- 5次までのフィルタx2
- RFスイッチ
- アンプ
- 電源レギュレータ
- 入力トランス(オプション)
- 入力コネクタにSMAまたはRJ-45(オプション)
- アンテナへの電源供給
- 出力にSMAまたはU-FL(ipex)コネクタ
基板を設計して注文したのは春節前の1月下旬だったのですが、先日ようやっと到着しました。今回はレジストをドングルの基板に合わせて黄色くしてみました。これを実際に試作してみます。
長くなるので次回。
リファレンス
- トロイダルコア活用百科 ダイプレクサの設計例がいくつか載っています
- ARRLハンドブック(2003) バンドパス+バンドリジェクト型(1段)のダイプレクサの設計詳細が載っています
- Ansoft Designer SV 使用した回路シミュレータ